雉がうるさい

 うちの近所には雉が住んでいる。オスの緑色のボディと
赤い頭はものすごく目立つのですぐわかる。
畑が多いので住み心地がよいらしい。
隣の家は農家だが,野菜クズなどがあるせいか,
オスの雉が毎日のようにうろうろしているのが窓から見える。
 3月11日の大地震のとき,雉が「ポッポッ」とあの独特の声で鳴いて騒いでいた。
怯えていたようだった。私が住む地域は震度6弱だったのだ。
ちょうど2階でトイレをしていたが,あまりにも揺れるのでぎょっとした。
猫が心配になり,「ペル!ペル!」と大声で呼ぶと,ペルが
ドドドドとものすごい足音を立てて姿を現し,すぐに机の下にもぐっていった。
レオのことは呼ばなかったが,(1階にいた)
2階に続く階段をかけあがってきて,揺れている間中
意味もなくろうかをドタドタと走り回っていた。恐怖のあまり頭が変になったようだった。
「大丈夫だよ」といって抱きかかえたが,チャカチャカと暴れて
揺れている中,階段を降り始めた。階段の途中にベビーフェンスがあり,
その扉が閉まってしまった。するとレオはなんと頭突きを始めたので
けがをしかねなかった。開けてやろうとしたが,揺れているので
階段を降りるのは恐ろしく,どうしても遅くなってしまった。
レオは待ちきれずに柵の非常に細いすきまから体を押しつぶして
逃げて行った。1階の方が安全だと思ったのだろうか?
揺れが収まった後,1階に降りて行くと,ペルはソファの下に潜っていて
いくら呼んでも何時間も出てこなかった。
レオはわたしの歩く後をついてまわった。
水道も電気も止まってしまった。夕方になり,だんだん薄暗くなってきたので
母親が予め防災用に買っておいたカンテラを取り出した。
単1電池4本を入れようとしたが,暗くて説明書が読めず,
+と-をどっちに向ければよいのかわからずに悪戦苦闘した。
 ようやく明かりがついたときには,午後6時くらいになっていた。
勤務先にいる母親にメールを送って猫が無事だと知らせておいた。
 その日はとても寒かった。居間で過ごしたかったがストーブの石油が空だった。
母親の部屋の大きなタンスが倒れていたが,その部屋のストーブの石油
だけ辛うじてあった。後に夜中になってからタンスを起こすのを手伝わされた。
 わたしの部屋では本棚の中身が落ちたりクローゼットの
戸が開いて高いところに積んであった衣類をしまったダンボール箱
落ちてきた程度ですんだ。一階の低いタンスの上にある
プリンターが落ちた。一度もとの位置に戻したら
また大きな揺れがきてもう一度落ちてしまったので非常に腹立たしかった。
食器棚は作り付けだったので倒れなかったが(追加料金をうんと取られた)
上の段にあるカップがいくつか割れた。ご飯茶碗も3個割れていた。
 翌日の正午に電気も水も復旧した。ふろをわかして髪を洗った。
また地震がくるのではないかとしばらくはおびえて暮らしていた。
それ以来緊急地震速報がテレビでなる度に2匹が
馬のようなダイナミックな走り方で机の下にもぐりこむようになった。
 震度3くらいの地震の数秒前に,雉が例の変な声で鳴くのを何度も聞いた。
動物的本能で予知できるとしたらすごい。
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